2種類の音感
そもそも音楽は音で成り立つ芸術活動で「音感」とはその音の音色や高さを聴き分ける感覚です。音感は簡単に表現すると相対音感と絶対音感の2種類に分けられます。また、どちらも生まれつきのものではありません。
音感は子供から大人に成長する中で音楽経験や学習の程度に応じて身についていきます。
相対音感とは
相対という言葉で表すように、基準となる音と比較して別の音を聴き取る音感です。例えば“ドレミファソラシ”と音階があり、“ファ”を基準にした場合、“ソラシ”は“ファ”より高く、“ドレミ”は“ファ”より低く聴こえます。基準の“ファ”を意識しながら高低差を比較して聴き取っているのです。これが相対音感です。
この高低差のある音の流れ(メロディー)を聴き取ったり、正しい音程で歌ったりする音感の訓練がいわゆるソルフェージュです。
相対音感の優れた点
相対音感は音と音の比較、つまり音のつながりで聴き取る音感ですから、音の流れ(メロディ)を感じ取るのに良い音感です。ほとんどの音楽は調性のある音楽ですから、この相対音感があることでほとんどの人が音楽を楽しむことができ調性感覚が身につきます。また、相対音感は子供から大人まで音楽経験や訓練の程度に応じて身につくというメリットがあります。
調性感とは、例えば長調なら明るい曲、短調なら暗い曲など曲想をとらえる感覚です。
相対音感の限界
相対音感は、基準になる他の音がないと聴き取ることが難しくなります。また、転調の多い曲を聴き取るのも困難です。めまぐるしく調性が変化する曲は相対音感で聴き取る場合かなりの訓練が必要です。また、現代音楽など無調の音楽になってくると聴き取るのは非常に困難です。つまり、高度な音の構成(複雑な曲)になったとき聴き取るのが困難になり、機能しにくくなります。また、楽器や楽譜などの媒介がないとき、相対音感では正しい音程や音名を聴く(想像する)ことは困難になります。
一般の人がポピュラーは親しみやすくクラシックは少し難しく感じるのは、簡単なメロディを繰り返す音楽は易しく、作曲技法の尽くされた音楽は難しく聴こえる、そのことを無意識に感じ取っているとも言えます。
相対音感のポイント
- 音を聴き取る場合、比較する音、基準になる音が必要。
- 音の高低差を感じる(聴く)ことができる。
- メロディ(旋律)などその曲のもつ音楽性を感じることができる。
- 調性のある音楽を聴く時によく機能する(調性感覚が身につく)
- 転調の多い曲、無調の曲など難しい曲(複雑な音の構成)の聴き取りは困難
- 楽器や楽譜などの媒介がないと正しい音程や音名を聴く(想像する)ことは困難。
- 子供から大人まで音楽経験や訓練に応じて身につく。
絶対音感とは
絶対音感の能力は、わかりやすく表現すると『とても良い聴覚』ということになります。音の響きに対して優れた感覚をもっています。それゆえ、絶対音感は比較する基準音や調性感がなくても音の高さや音名がわかります。絶対という言葉が表すように、音そのものを1音1音身につけて(記憶している)音感です。
子供は成長と共に相対思考が発達してきます。大きいもの小さいもの、好きなものそうでないもの・・いわゆる比較する能力、物事の分別がついてきます。音感も同様に相対音感が発達しやすくなります。この相対感覚が発達する前の年齢、幼児期の(2才~6才)までの間でないと身につけることができません。20万人に1人と言われるこの音感は、さまざまな研究の結果、遺伝や音楽家の家系でなくとも音感教育で身につくことが分 かっています。
絶対音感の優れた点
絶対音感をもつ人の場合、自然界にある色々な音を響きとして敏感に感じ取ることができます。色々な響きを自分の中にもっていて、楽器などを使わずとも正しい音程や音名を想像できるのです。音楽の世界では顕著にその能力が発揮されます。音の高さそのものを記憶しているので、比較する音がなくとも個別に音を聴き取ることができます、ヒントが必要ないのです。また、転調の多い曲、調性感の無い無調の曲でも簡単に音を聴き取ります。つまり、複雑で高度な音の構成であっても1つ1つの音を聴き取ることができるのです。
楽譜がなくても音楽を聴いただけで、演奏したり、歌ったり、楽譜にすることができるのはこれらの能力が所以です。晩年聴覚を失ったベートーヴェンも絶対音感を持っていたので作曲を続けることができたと言われています。
絶対音感の限界
絶対音感だけが身についている場合(絶対音感を身につけた後、相対音感を身につけなかった場合)音の流れを単音(1つ1つの音を個別の高さや音名)としてとらえてしまう点があげられます。つまり、音感が良いゆえに音楽を個別の1つ1つの音として分解して聴き取ってしまうケースがあります、そのため調性感が伴わないなどのケースもあります。また、楽器に極端なピッチ(周波数Hz)の違いがある場合、別の音として認識するケースもあります。
ただし、これらは絶対音感を身につけた後、相対音感を身につけることで全て解消します。
絶対音感のポイント
- 良い耳(聴覚)を持ち音の響きに対して優れた感覚をもっている。
- 色々な響き(音程、音名)を自分の中に持っている(記憶している)。
- 比較する音(基準になる音)は必要ない。
- 楽器や楽譜の媒介がなくても正しい音程や音名を想像できる。
- 暗譜など記憶力に優れる。
- 転調の多い曲、無調の曲など複雑で高度な音の構成でも聴き取ることができる。
- 特に音楽活動において優れた能力を発揮する。
- 調性感覚は伴わない(音の高低差の比較はしない)。
- 相対思考(感覚)の発達する前(2才~6才)までの幼児期でないと身につかない。
理想の音感とは
音楽活動する上で理想的な音感とは、一言で言えば相対音感と絶対音感の両方をあわせ持っていることです。これまで紹介した2種類の音感の優れた点を全て持っていると考えれば容易に想像できるのではないでしょうか。
音感は音楽の基礎で、全ての音楽活動はこの基礎の上に成り立ちます。良い耳、良い音感をもつということは、それだけで優れた才能として子供たちの将来に可能性をもたらすと言えます。特に音楽活動をする上では優れた能力としてとても大きな財産となります。子供たちにとって豊かな感性と心を育むきっかけとなり、将来、色々な夢を持ったときその選択肢を広げることにもつながるでしょう。
音感教育は優れた聴覚を育てることでもあります。子供の才能の中でも音感はあまり注目されることはありませんが、スポーツで運動能力が向上したり、勉強で学力が伸びるのと同様、実は聴覚の向上も子供の重要な能力の1つとして様々な教育効果があります。どの家庭でも、子供に特別な才能を身につけさせられる機会が広がったことは喜ばしいことです。
芸術教育によって育まれる美的センスや創造力は、子供達の個性の発揮をうながします。この音感教育は絶対音感ということのみに限定されず、その才能を活かし音楽を楽しみ、将来世の中に大きく羽ばたく「可能性を身につけること」が理想なのです。
絶対音感をもつ生徒のご家庭へのアンケート
絶対音感もつ生徒のご家庭よりアンケートをお寄せ頂きました。
※アンケートは家庭の個々の感想を記入して頂いたものです(絶対音感の効果には個人差がありますので、参考としてご覧ください)。
絶対音感が身についた後、日常生活(レッスン、音楽鑑賞、映画(TV)鑑賞、読書、音楽の授業、クラブなど)で、絶対音感の効果かな・・と思うような出来事がありましたら、お聞かせください
- 聴いた曲で心にのこった曲を弾けるようになった
- TVで聴いた曲が楽譜なしで弾ける
- 学校の校歌を先生がピアノで弾くのを聴いてすぐに弾けた
- 学校の太鼓の試験で正確にたたけて合格しました
- その時にはやっていた曲が弾けるようになった
- クラブの金管の曲をピアノで弾けるようになった
- CMやテレビの曲を聴いただけで弾ける
- 好きな曲がピアノで弾きたくなる
- 上の子が弾いている曲を聴いていると楽譜を読まなくても似たような感じで曲が弾けて、あとはアレンジをしながら弾いている
- 学校の先生が弾いた曲、季節の曲を家へ帰ってきて楽譜なしで弾いている
- 聴いた曲を覚えている
- 歌をうたうのが大好きで音程があっている
- 学校の音楽の先生に歌が上手とほめられた
- 長い曲を暗譜で覚えられるところ
- 学校の勉強で暗記ものはとても強いような気がします(社会や歴史ものなど)
- 楽譜がなくても聴いた曲のメロディーがわかる時がある
- 自分が歌うときや友達、歌手の歌声の音程が違うのがわかる(ライブとCDの時で異なるなど)
- 国語の授業で音読が得意
- 学校集会にて、ハンドベルの音当てクイズをした時、すべて正解したそうです
お手紙より
いつもお世話になっております。
学院に通い始めて3月で7年になります。最初は絶対音感が身につくかどうか不安でしたが、今は度々賞状をいただき長く続けて良かったと思っております。
効果かどうかわかりませんが、年中時より英語を習っており、今現在4年生ですが、中1の英語の教科書がすらすらと暗唱できております。英語教室で先生からも覚えが早いという事で、5,6年のクラスにとび級で参加させて頂いています。
とにかく記憶力、集中力が良く、いつも驚かされています。